山形・米沢の名門機屋『佐志め織物』

山形県・米沢市は織物の産地として知られています。

この地で大正13年に創業された名門機屋(はたや)の『佐志め織物』は、極細の糸と昔ながらのジャカード織機を使った極上の織物製品を世に送り出しています。

フォーマル着物にも合わせやすい上品な雨コートや、江戸小紋を織物で再現した『五百機(いおはた)小紋』、ひとえの季節に涼しく着こなせる『なつきぬ』や、軽くて締めやすい『五百機織』の全通袋帯など、現代の着物ライフに寄り添う逸品の数々をご紹介します。

現当主の曾祖母・佐藤志め氏による創業

佐志め織物の現当主は4代目となる佐藤亨定氏です。

佐志め織物は、大正13年に、現当主の曾祖母にあたる佐藤志め氏により創業されました。呉服商を営んでいた夫・佐藤定次郎氏の健康上の理由により、それまでの商いの継続が困難となったため、妻である佐藤志め氏が機屋を開業したのが始まりです。

昭和29年には、「佐藤志め」の名前にちなんで、現在の『佐志め織物有限会社』が生まれました。

佐志め織物では、現代ではすっかりヴィンテージ品となった「ジャカード織機」を今も使用しています。

ジャカード織機は、機械織りといっても職人の高度な技術が必要とされる「アナログ」な織機です。

デジタルデータを使う機屋さんも増えていますが、佐志め織物では、今も「紋紙(もんがみ)」を使って織りあげています。

紋紙とは、模様を織るための型紙となる物で、厚紙にあけられた無数の穴で織り模様を表現します。

昔ながらの伝統にこだわり、手間を惜しまずに作られる「佐志め織物」の製品からは、作り手の愛情と気迫が伝わってきます。

創業当時から作られている「雨コート」

創業当時、米沢では「雨コート地」の生産が盛んで、多くの機屋が雨コートを織っていました。

佐志め織物では今も主力製品の一つとして雨コートを作り続けています(現在では最後の1軒となっているそうです)。

雨コートは、その名の通り雨の日に着物の上に着るコートです。高密度の生地にすることで、表面がつるんとして雨風を通しません。

化学繊維などではなく、正絹(シルク100%)で作られています。髪の毛よりも細い絹糸を使って、経糸(たていと)に4,000本という緻密な織りが特徴です。

極細の糸を使った薄い雨コートは、くるぶしまである丈でも重くならず、たたんでおいてもシワになりません。

佐志め織物の雨コートブランド『天平錦』は、格調高い正倉院文様を特徴としていますので、フォーマル着物にも合わせることができます。

江戸小紋を織りで再現した『五百機(いおはた)小紋』

『五百機織(いおはたおり)』は、七夕の織姫が織ったとされる「五百機衣(いおはたごろも)」から名付けられました。

『五百機織』は佐志め織物の登録商標となっています。

『五百機小紋』は、江戸小紋の柄を織りで再現したものです。

江戸小紋は、武士が裃(かみしも)に使用していた細密な型染め文様です。

ごく細かい文様は、遠目には無地のように見えるほどで、江戸っ子の粋(いき)を感じさせます。

江戸小紋の細かな柄を、寸分の狂いもなく型で染めるのには、卓越した職人技が必要とされます。

その緻密な文様を「染め」ではなく「織り」で再現したのが、『五百機小紋』です。

極細糸で織る技術があるからこそ、可能となる表現です。

4,000本の経糸(たていと)と、強い撚り(より)をかけた緯糸(よこいと)を組み合わせることで、しなやかな風合いが実現します。

ひとえの季節も涼しい『なつきぬ』

盛夏の着物といえば、透け感のある絽(ろ)や紗(しゃ)の生地が一般的です。

近年の日本では、春先から汗ばむ日もあり、夏着物の季節を過ぎた秋まで残暑が厳しくなっています。

佐志め織物の『なつきぬ』は、絽や紗のように透けていませんが、薄手で肌あたりがさらりとしているので、ひとえの季節でも涼しく着こなすことができます(透ける生地は盛夏以外には着用できません)。

『なつきぬ』の涼しさの秘密は、やはり高度な織りの技術にあります。

変化をつけた撚り(より)をかけた糸を使用することで、糸自体にできる凹凸が肌ざわりを快適にしてくれます。

このように、佐志め織物では、これまで培ってきた技術を生かして、現代日本の気候や生活習慣に合わせた新製品を開発しています。

着物ライフを楽しむ現代人にとって、とても心強い機屋さんですね。

締めやすい袋帯も人気です!

佐志め織物では、帯の製造にも力を入れており、着心地の良さに定評があります。

経糸に極細の絹糸を使った「五百機織」の帯は、緻密な織り模様が美しい光沢を生み出しています。

自社で製造した裏地を使用するため、表地にしっかりそって、上質で締めやすい袋帯に仕上がります。

また、佐志め織物の袋帯は、全通(ぜんつう=帯全体に柄が入っている)になっているので、柄合わせに苦労することもなく、軽くて締めやすいのが特徴です。

着物通の方に人気が高いのはもちろんですが、着付けを習い始めたばかり…という方にも扱いやすいのでおすすめです。

※他社製品でよく作られている「六通(ろくつう)=見えるところだけに柄がある」袋帯ですと、良い位置に柄を出すために着付けに少し注意が必要となる場合があります。

佐志め織物の着物や帯を谷屋で

千葉県香取市の谷屋呉服店では、全国各地の着物や帯の「名産品」を紹介する展示会を定期的に開催しております。

今回ご紹介した『佐志め織物』の着物や帯を一堂に会する展示会も予定しておりますので、その際はぜひ会場へお立ち寄りくださいませ。